第7回 書評コンテスト結果発表

「書評コンテスト」にたくさんのご応募をありがとうございました。
厳正な審査の結果、次の通り入賞者を決定いたしました。


最優秀賞(副賞3万円)

商経学部 商学科 2年 内田 裕基 さん 暴力の論理/『民衆暴力』

 

優秀賞(副賞2万円)

商経学部 経済学科 3年   鶴谷 拓帆 さん 『Existence precedes essence.』/『ブラックボックス』


奨励賞(副賞1万円)

商経学部 商学科 2年  須田 光 さん 現代に通じる「民衆暴力」/『民衆暴力』

商経学部 経済学科 2年 風見 勇大 さん ある種、熱狂。単純と複雑の交差点。/『民衆暴力』

サービス創造学部 4年  渕本 麻菜美 さん 自由な社会で『生きづらい』若者/『ブラックボックス』


審査員
図書館長、図書館運営委員会              

表彰式
日時:2022年12月15日(木) 12時50分~13時20分
場所:図書館1階 マルチスペースでおこないました

 

 

 

 

 

 

 

 

 

審査委員長 講評

サービス創造学部 教授 石井泰幸

 この度、書評コンテストも第7回を迎えました。千葉商科大学も創立100周年を目前に控えていますが、この度の書評コンテストにおいては、それに相応しい優れた書評を多数ご応募いただきました。その意味で、千葉商科大学の将来は非常に明るいと感じております。

 さて、今回は課題図書として2つの評論、『民衆暴力』と『隠された奴隷制』、1つの小説『ブラックボックス』を挙げさせていただきましたが、課題図書について振り返る前に、まずは評論と小説の違いを整理しておきましょう。

 評論は、問いを立て、論理の積み重ねによって一定の抽象的な考え方を導くものです。しかし、その問いは簡単に解決できない難問であり、唯一の正解が存在しません。ここでは、著者の思考の筋道によって一定の結論が導き出されます。しかし、ここには大きな落とし穴があるのです。それは、このような一貫した論理には、必ずパラドックスという罠が潜んでいるということです。つまり、その結論がいかにもっともらしく見えたとしても、実際にはそれが誤っている可能性もあるのです。

 一方、小説は評論と違い、論理性ではなく物語で構成されており、その意味では評論と異なり、多様な解釈が許容されています。物語は、評論において展開される論理を打ち壊すパワーを持っています。だからこそ、皆さんは、小説を読み進めていくうちに自らが持っていた論理を砕かれ、驚きと感動を感じることになるのです。とはいえ、小説も決して一筋縄ではいきません。確かに、物語には論理性はありませんが、筋書きは存在します。小説の中における驚きと感動は著者によって組み立てられた筋書きを正しく読み取ることによって初めて得られるのです。言い換えれば、驚きと感動を体感するためには筋書きという物語の襞(ひだ)の中に隠されている著者の真意に接近することが肝要なのです。

 以上、評論と小説の特徴及びその陥穽(かんせい)について確認してきましたが、書評とはこのような評論と小説の持つ陥穽を明らかにし、それを自分の言葉で相対化していくことです。この点において、書評は感想文と異なります。感想文は、自分の価値観との対話であり、自分というフレームの枠内での意見という意味で完全に主観的に書かれた文章なのです。もちろん、この過程自体は非常に重要であり、書評にもつながる原動力となります。書評は、このような主観に基づく自分の作品への思いをいったん突き放し、相対化する営為なのです。

 では、この3冊に対する総評をしてみたいと思います。『民衆暴力』と『隠された奴隷制』は私たちがこれまで捉えてきた「暴力」や「奴隷制」といった記号に、著者の視点が加えられたものです。そして、その著者の視点こそ、歴史の中に埋もれてしまっていた概念であったのです。この2作品は、これらの概念を白日の下に曝し、まさに暴力や奴隷制が我々の日常の中に潜み、「ブラックボックス」のごとく、我々に知らず知らずのうちに作用していることを明らかにしたのです。他方で、『ブラックボックス』は、主人公のサクマに対するリアリティある描写を通じて、隠された「暴力」や「奴隷制」が我々の生活をすぐにでも狂わせるかもしれないということを克明に描き出しています。それゆえ、実はこの3冊は同じ地平に立つものでもあるのです。

 この点を踏まえ、最優秀賞を受賞した商経学部の内田裕基さんの『民衆暴力』の書評についてコメントしていきたいと思います。この書評の評価すべき点は、暴力の論理性に着眼したことにあります。『民衆暴力』は、マックス・ウェーバーによる「国家とは、一定の領域の内部において……正当な物理的暴力の独占を要求する人間共同体である」という有名な定義から出発し、国家による警察活動や軍事行動といった法によって正当性を付与された暴力とは区別される民衆による暴力の本質を我が国の歴史上の事件を手掛かりとして明らかにした作品となります。内田さんの書評は、民衆による暴力の論理をしっかりと捉え、この論理に孕(はら)むパラドックスを抉(えぐ)り出し、その超克(ちょうこく)を試みた点で、全作品の中でも光るものがあり、最優秀賞に値するとの結論で一致しました。

 最後に、今回の書評コンテストに応募された作品はどれも優れたものばかりで審査は難航を極めました。これは、私たちにとっては嬉しい悲鳴であり、本年度の書評コンテストの大きな成果でもあります。審査員一同、来年度も皆さんの積極的な応募を心待ちにしております。

お問い合わせ
図書館コントロールデスク
E-Mail: lib@cuc.ac.jp

第7回 書評コンテスト応募要項

2022年8月1日より、第7回書評コンテストを開催します。
課題図書を1冊選び、書評を書いてぜひご応募ください。
最優秀賞・優秀賞・奨励賞に選ばれた方には賞金を贈呈します。
更に、ご応募いただいた皆さんに、もれなく参加賞あり!
応募期間中、図書館では課題図書を展示しています。ぜひ手に取ってご覧ください。

応募期間】2022年8月1日(月)~9月20日(火10月16日(日) ※応募期間は終了しました

【応募対象】千葉商科大学に所属する学部生

 書評コンテストについての詳細は下記をご覧ください。

●応募要項はこちら

●ポスターはこちら

●書き方のコツはこちら

入選の秘訣(動画案内)こちら

応募テンプレートこちらからダウンロードしてください。

 ≪課題図書≫(タイトルをクリックすると蔵書検索の詳細画面にリンクします)

『民衆暴力 : 一揆・暴動・虐殺の日本近代』 著:藤野裕子 中央公論社(2020) 

『ブラックボックス』 著:砂川文次 講談社(2022)

『隠された奴隷制』 著:植村邦彦 集英社(2019)